ボツリヌス治療とは
ボツリヌス治療とは「ボツリヌス菌」が産生する「ボツリヌス毒素」から抽出した「ボツリヌストキシン」と呼ばれる有効成分を筋肉に注射することで、筋肉の働きを抑え弱くすることを目的にした治療法です。
「ボツリヌス菌」もしくは「ボツリヌス毒素」をそのまま注射するわけではないので、ボツリヌス中毒になる心配は全くありません。
また、「ボツリヌストキシン」は注射した局所で効果を発揮するもので、全身に流れ心臓や内臓等の他部位の筋肉までが弛緩してしまうという心配もありません。
尚、一般的に知られている「ボトックス治療(注射)」も「ボツリヌス治療(注射)」のことで、アラガン社製の「ボトックス」という商品名の注射薬を使用するためそう呼ばれています。
歯ぎしり食いしばりのボツリヌス治療
歯科で行う歯ぎしりや食いしばりに対するボツリヌス治療は「噛む」ための筋肉である咀嚼筋のうち「咬筋」に注射をして症状の緩和を図ることを目的としております。※側頭筋(耳の上辺り)には注射しませんのでご注意ください。
咬筋は下顎の「エラ」と呼ばれる部分にある下顎骨と頬骨にかかる板状の筋肉です。咬筋の発達している方ではエラを触りながら強くかみしめると筋肉の盛り上がりを感じることができます。
ボツリヌス注射により歯ぎしりや食いしばりを全くしなくなるということはありませんが、筋肉自体の働き・収縮を緩めることができるので、結果として歯ぎしりや食いしばりによる力の影響を少なくすることが期待できます。
また、ボツリヌス注射を行うことで夜間の歯ぎしりや食いしばりをする回数(頻度)を少なくする効果や顎周囲の痛みを和らげる効果があるという報告もあります。
日常生活においては「咬む」筋力が低下するため固いものが少し噛みにくくなり(顎が疲れやすくなり)ますが、側頭筋など他の咀嚼筋がありますので全く噛めなくなるということはありません。
ボツリヌス治療の効果持続期間
ボツリヌス注射後は通常2~3日後から効果が現れ、1~2週前後で安定しピークに達します。
その後徐々に効果が薄れ、個人差にもよりますが4~6カ月ほどで効果がなくなります。そのため効果を継続させたい方は3~5カ月間隔で注射を行います。
一方で、持続効果に限りがあることで万が一薬が効きすぎた場合でも時間がたてば元の状態に戻るという安心感があります。
また注射を継続する場合でも、だんだんと注射間隔が長くなるもしくは注射を打つ必要がなくなる場合もありますので、一生打ち続けなければいけないというわけではございません。
ボツリヌス治療後の注意点
歯ぎしりや食いしばりの強い方は日中(起きている間)も上下の歯を合わせていることが多々あるかと思います。
通常、咬筋がリラックスしている状態の上下の歯は2mmほど離れています。すなわち、力の強弱に関わらず、普段から上下の歯が接してしまっている方は常に咬筋を働かせている(緊張させている)ことになります。
折角ボツリヌス注射をしても普段から筋トレをしてしまってはその効果も半減してしまいます。時折ご自身で「歯を噛みしめていないか」、「上下の歯を接触させていないか」を気にしてみてください。
また、睡眠時には眠りの浅い状態の時に歯ぎしりや食いしばりをしていることが明らかとなっています。ストレスの他にもアルコール、カフェイン、ニコチン等は睡眠を浅くすると考えられていますので注意が必要です。
さらに、逆流性食道炎(胃食道酸逆流症)の方も、睡眠中の胃酸の逆流に伴う嚥下の増加により歯ぎしりやくいしばりが誘発されているという報告もあります。胃腸の状態を改善することで歯ぎしりや食いしばりも減少したという報告もありますので、そのような点も見直してみるとよいかもしれません。